R&Dコラム

*
このエントリーをはてなブックマークに追加

研究者の常識!インパクトファクターとは?

記事では、インパクトファクターの定義や計算法、そしてIFを取り巻くリスクや代替指標など、多角的な視点から解説していきます。


◎研究者の常識!インパクトファクターとは?

インパクトファクター(IF)は、学術雑誌に掲載された論文の被引用回数をベースに、その雑誌の影響度を推し量る指標として、研究者の間で広く知られています。研究の世界では、投稿先雑誌を選ぶ際にIFを参考にすることが多く、学術機関による評価や研究資金獲得の判断材料としても用いられています。

しかし、インパクトファクター自体は雑誌全体の評価を示すものであり、個々の論文や研究者の質を直接測るわけではありません。また、分野の違いによってIFの平均値や評価基準は大きく異なるため、闇雲に数値の高い雑誌を追い求めることにはリスクもあります。

本記事では、インパクトファクターの定義や計算法、そしてIFを取り巻くリスクや代替指標など、多角的な視点から解説していきます。研究者にとって重要な指標の一つであるIFを、正しく理解し、賢く活用しましょう。

◎インパクトファクターとは何か

まずはインパクトファクターがどのような指標で、どのような場面で活用されるのかを押さえておきましょう。

インパクトファクターは、特定の学術雑誌に掲載された論文がどの程度引用されているかを示す指標です。一般的には、あるジャーナルの過去2年間に発表された論文が、翌年にほかの論文でどれだけ引用されたかを集計し算出します。引用される回数が多いほど、その学術雑誌で扱う研究が注目されているか、研究者から関心を持たれていることを意味すると考えられています。

学術界では、この数値が大きいほど雑誌の影響力が高いと捉えられ、研究者が投稿する際の目安の一つとして利用されています。また、大学や研究機関の中には、教職採用や研究評価時に投稿論文の掲載誌IFを評価参考にするケースもあり、キャリア形成において重要とされることが少なくありません。

ただし、IFは雑誌の人気や認知度をある程度示すものの、個々の論文の質や研究者の真の実力を直接測る指標ではないことに留意が必要です。引用数を左右する要因は多岐にわたるため、IFだけで研究の価値を判断するのは危険であり、慎重な運用が求められます。

◎インパクトファクターの歴史とその背景

インパクトファクターはどのような経緯で生まれ、これまでにどのように発展してきたのでしょうか。

インパクトファクターは、1970年代に情報科学者であるユージン・ガーフィールドが開発した論文引用指標に端を発します。研究コミュニティにおける情報の流れを把握し、重要な研究や雑誌を迅速に見つけ出すことを目的に考案されました。登場当初は限られた大学図書館や研究機関のための資料選定指標として用いられていたといわれています。

その後、学術活動が国際化し、世界中の研究者がオンラインで論文にアクセスできるようになる中で、インパクトファクターは雑誌の評価指標として定着していきました。現在はClarivate Analytics社がJournal Citation Reports(JCR)やWeb of Scienceを通じてIFを算出・提供しています。

もともとは文献管理と引用の多様な側面を評価するために始まったIFですが、近年は一部の研究者や雑誌による数値の操作が指摘されるなど、新たな課題も浮上しています。歴史的背景を知ることは、この指標をどう解釈し、どのように活用するかを考える上で重要です。

◎インパクトファクターの計算法

インパクトファクターは、過去2年間の論文数と引用数をもとに算出されますが、その具体的な仕組みを見ていきましょう。

IFの計算は「あるジャーナルの過去2年間に掲載された“引用可能なアイテム”が、翌年にどれだけ引用されたかの合計数」を分子に、その期間に掲載されたアイテム数を分母として割り算する形で導き出されます。これにより、そのジャーナルに掲載された論文全体の平均引用数が数値として示されます。

算出には、Clarivate AnalyticsのWeb of Scienceデータベースが主に用いられ、PDFや電子ジャーナルとして発表される形態にかかわらず、多くの論文が網羅的に集計されています。ただし、引用可能なアイテムとみなされるかどうかは論文種別によって異なり、計算から除外されるものも存在します。

この計算法は雑誌全体の平均値に注目しているため、一部の高引用論文によってIFが大きく左右されるケースがあることにも注意が必要です。つまり、分子の引用数を稼ぐ少数の論文が大きく貢献し、ジャーナル評価を高める可能性があります。

・算出に用いられるデータ範囲

IFの算出対象となる期間は、通常過去2年間に出版された論文です。具体的には、ある年のIFを算出するとき、その年の直前2年間に掲載された論文の引用回数を扱います。たとえば2023年のIFを算出する際には、2021年と2022年に掲載された論文がどれだけ引用されたかを集計します。

この2年間という期間設定には、科学技術の進歩や研究動向を反映しやすいという利点があります。しかし、分野によっては引用が緩やかに蓄積される場合があり、2年では評価しきれない面があるとも指摘されています。

一方で、宗教研究や哲学など長いスパンで引き合いに出される文系分野の場合、2年間という短期評価は実態と乖離してしまうことがあり、分野によるIFの比較には慎重を要します。

・引用可能なアイテムの定義

IF計算で対象とされるのは主に論文や総説(レビュー)、議事録など「引用可能」と認められる学術文献に限られます。書評、社説、コメントなどのカテゴリは引用可能アイテムから除外される場合が多く、IFの分母には含まれません。

この区切りによって、実際のジャーナル掲載物すべてが評価対象となるわけではありません。雑誌によっては総説論文を増やすことで被引用数を意図的に引き上げやすいといった戦略が取られることもあります。

研究者としては、掲載を狙う雑誌がどのような論文種別を主に扱っているのかを把握し、自身の研究の特性に合った投稿先かを検討する必要があります。

インパクトファクターの調べ方

IFを確認するには、主にいくつかのデータベースやツールを活用しますが、どのような手順で調べれば良いのでしょうか。

実際にIFを調べる際には、Clarivate Analyticsが提供するWeb of ScienceやJournal Citation Reports(JCR)などが代表的な情報源です。大学図書館などが契約している場合は、研究室や自宅からでもアクセスできる環境を用意しているケースがあります。

Web of Science経由でジャーナル情報をチェックし、そこからリンクされるJCR画面で雑誌ごとのIFを確認する流れが一般的です。また、雑誌名を入力するだけでIFが表示される機能もあり、複数の雑誌を比較することが簡単に行えます。

Scopusなど他のデータベースでもIF相当の独自指標(CiteScoreなど)を提供しており、必要に応じて複数のデータベースで雑誌の評価を比較検討することが推奨されます。

・Web of Scienceでの検索手順

まずは大学や施設でWeb of Scienceにアクセスできるかを確認します。契約環境があれば、Web of Scienceのホーム画面から、ジャーナル名やISSNなどのキーワード検索で目的の雑誌を探します。

該当する雑誌の詳細画面に移動し、基本的な情報や関連する引用の情報をチェックします。その後、IFの値が示されている項目へのリンクを探すことで、該当ジャーナルの最新IFや過去数年分の推移を確認可能です。

Web of Scienceの検索手順は比較的単純ですが、使い慣れないと多くの絞り込み機能に戸惑うこともあります。必要に応じて図書館や研究支援スタッフに問い合わせるのがおすすめです。

・Journal Citation Reportsを活用する方法

Journal Citation Reports(JCR)は、インパクトファクターをはじめとする雑誌評価指標の集計結果が掲載されているデータベースです。特定ジャーナルのIFや分野別の順位、被引用の状況などを一覧できるのが特徴です。

JCRでは分野別ランキングや上位ジャーナルのリストを容易に確認できるため、どの雑誌が特定領域で高い評価を得ているかを俯瞰する際に役立ちます。サイト内のフィルター機能により、興味のある研究分野での上位雑誌を素早く抽出可能です。

契約形態によっては自宅アクセスが制限されることもあるので、大学や研究機関の図書館ポータル経由でログインするのが一般的な利用法です。

・その他のデータベース・資料を検討する

IF検索はWeb of ScienceとJCRが代表的ですが、それ以外のドキュメンテーションも利用可能です。たとえば、Scopusが提供するCiteScoreやEigenfactor、その他の研究影響度指標を組み合わせて検討すると、多面的に雑誌を評価できるメリットがあります。

また、大学図書館によっては独自に整理した資料や、国内外の研究者コミュニティからの評価情報をまとめたガイドラインが用意されていることもあります。IFの数値だけでなく、こうした情報も参照して総合的に判断するようにしましょう。

特定の専門領域では、研究専門誌や学会誌などに特化したランキングが公表されている場合もあるため、分野固有の評価指標やランキング表もあわせてチェックしておくとさらに有用です。

◎Q1ジャーナルと四分位指標の意味

IF以外に四分位指標という指標があり、雑誌のランク付けに活用されています。Q1ジャーナルの位置づけとはどのようなものでしょうか。

四分位指標は、ジャーナルを上位25%(Q1)から下位25%(Q4)まで4つのランクに分け、雑誌の相対的な順位を分野ごとに把握できる指標です。たとえば、分野の中で特にIFが高い上位25%の雑誌はQ1ジャーナルと呼ばれ、研究者の間で高評価を得ていることが多いです。

研究者が掲載誌を検討する際、IFそのものに加えて四分位指標を確認することで、自分の研究予定分野の中でどの水準に位置づけられるかがより明確になります。特にIFだけだと分野差を十分に踏まえきれないケースがありますが、四分位指標では同一領域内の比較ができる点が利点と言えます。

なお、Q1ジャーナルに載るということは研究者のキャリア上有利になる傾向がありますが、同期する分野や競争率の高さも考慮し、研究の本質を優先した雑誌選択が望まれます。

・四分位指標の計算と利用方法

四分位指標の計算は、Journal Citation Reportsなどのデータベースが提供する分野別ランキングにおいて、雑誌をIF順に並べ、その上位25%に属するものをQ1、次の25%をQ2と区分していく方法を用います。結果として、各分野ごとにQ1からQ4までのグループに分類される形になります。

この指標は単純に数値の高低だけでなく、雑誌がどのレベルの42分位にいるかを把握するのにも便利です。例えば「引用率が同程度」の雑誌同士で比較したいときに、四分位指標による分類は参考となります。

ただし、IFの母数となる引用件数や論文数が分野ごとに大きく異なることもあるため、Q1やQ2といったランクに所属していても国内外での知名度や論文の質が必ずしも同じとは限りません。あくまで相対評価であることを認識しておく必要があります。

◎分野によるIFの目安と上位ランキング雑誌

インパクトファクターは各研究領域によっておおよその平均値やランキング上位雑誌が変わります。分野ごとの違いを理解しておきましょう。

医学や生命科学などの分野は論文数と引用数が非常に多いため、IFの高い雑誌が多数存在します。NatureやScience、The LancetなどのトップジャーナルはIFが二桁を大きく超えることが珍しくなく、研究者にとって憧れの場となっています。

一方、歴史学や社会科学領域では、引用のパターンやペースが異なるため、IFが1~2程度でも非常に重要な研究誌という場合があります。つまり、単純に数値が高ければ凄い雑誌というわけではなく、各分野の平均IFや引用文化を考慮したうえで比較する必要があります。

また、ランキング表を参照するときは、何を基準にランキングが作成されているのかを確認することが重要です。IF以外の評価軸も合わせて採用しているケースもあるため、自分に適した基準を持つランキングを上手に活用しましょう。

◎インパクトファクターに影響を与える編集方針

一部のジャーナルでは編集方針そのものがIFに影響している場合があります。どのような点が関係しているのでしょうか。

IFは“平均被引用数”という性質を背景に、総説(レビュー)論文を積極的に掲載して被引用数を増やす戦略が用いられることがあります。総説は複数の研究をまとめて解説するため、多くの研究者が参考にしやすく引用されやすい特性があります。

また、“早期オンライン公開”を積極的に行うことで、掲載論文が引用されるチャンスや期間を長く確保する方法もあります。引用に結びつきやすい環境を整えれば、IF向上にもプラスに働く可能性があります。

ジャーナル出版会や編集委員会によっては、研究テーマや取り上げるトピックを厳選しているところもあり、より注目度の高い分野に特化することで高引用を狙うケースも見受けられます。研究者は雑誌の編集方針も合わせて確認しておくと、投稿後の影響力を捉えやすくなります。

◎インパクトファクターの過度な信仰によるリスク

便利な指標であるIFですが、一方でこれに依存しすぎることがもたらす諸問題についても考えてみましょう。

インパクトファクターを過度に神格化すると、研究者が短期的に引用を稼げるテーマばかり選び、長期的・基礎的な研究が疎かにされる可能性があります。評価がIF中心になってしまうと、研究の多様性や独創性が難しくなる恐れがあるのです。

また、高IF雑誌に論文を掲載することに注力しすぎると、研究そのものの質よりも“掲載実績”を優先してしまうケースもあります。若手研究者がキャリア上の理由でIFの高い雑誌を目指すあまり、研究環境が歪んでしまうことも指摘されています。

そもそもIFは雑誌単位の指標であり、個々の論文のインパクトを正確に測るわけではありません。次のサブセクションでは、こうしたIFの限界や、偽物IFへの注意にも触れていきます。

・インパクトファクターと雑誌評価の限界

インパクトファクターは雑誌の平均引用数を示す指標であり、各論文がどれだけ実際に影響を与えたかを直接示すわけではありません。一部の高引用論文がIFを引き上げているケースもあり、投稿する論文のトピックやタイミングによって被引用数が左右されます。

また、IFが高いからといって、すべての論文に質の高さが保証されるわけではありません。研究成果そのものの評価は、引用数のほかにもピアレビューの質や研究コミュニティの受容度など多面的に判断されるべきです。

したがって、研究者や学術評価機関にとってIFはあくまで参考指標の一つであり、研究の本質的な価値を測るには他の視点をあわせて活用する必要があります。

・偽物のインパクトファクターの見分け方

近年、一部の悪質な出版社や自称学術雑誌が、独自に算定したインチキのインパクトファクターを掲げている事例があります。正式に認められていないプライベート指標を使い、虚偽の高IFを謳う雑誌も存在するため注意が必要です。

これらはしばしば“ハゲタカジャーナル”とも呼ばれ、学術的な品質管理が不十分なまま論文を掲載し、著者に掲載料を支払わせるビジネスモデルを取っています。疑わしい雑誌のWebサイトを確認し、著者情報や査読体制が明確かどうかをチェックしましょう。

また、Clarivate AnalyticsやScopusなどの正式なデータベースで検索しても雑誌が出てこない場合は、偽のIFを利用している可能性があります。投稿前に必ず信頼できる情報源からジャーナルの評価を確認することが重要です。

◎インパクトファクター以外の学術雑誌評価指標

インパクトファクターが広く使用される一方で、CiteScoreやEigenfactorなどの代替指標も注目されています。

CiteScoreはElsevierが提供している評価指標で、Scopusに収録された論文の被引用数をもとに計算されています。対象期間は4年間で、IFとはまた異なる切り口で雑誌の影響度を評価できる点が特徴です。

Eigenfactorは被引用数だけでなく、引用元となる雑誌の影響度も考慮した指標で、ネットワーク分析の考え方が取り入れられています。被引用元が高評価の雑誌であれば、その引用にはより大きな重みが加わります。

これらの指標を組み合わせて判断することで、IFだけでは十分に把握できない研究価値や論文の波及効果を捉えやすくなります。自分の研究目的や分野特性に合った指標を選んで活用することが大切です。

◎研究者がIFを活用する際のポイント

IFを上手に使いつつ研究評価の偏りを避けるために、どのような点を念頭に置くべきなのでしょうか。

まず、投稿先を選ぶ際にはIFだけでなく、雑誌の編集方針や対象読者、引用の特性といった要素も考慮しましょう。短期的な引用を重視するのか、長期的な蓄積を狙うのかで適切な雑誌は変わります。

また、自分の専門分野における平均的なIFや、関連領域で高評価を得ている雑誌がどれかを把握しておくことも大切です。特定分野ではIFが低くても影響力の高い雑誌があるため、そちらへの掲載を目指すほうが研究成果を適切に広められる場合があります。

さらに、研究者個人の評価指標としてIFを過度に導入すると、本来の研究の質や長期的な貢献を見落とす危険があります。あくまで情報収集の一環としてウエイトを置きすぎないようバランスを保ちましょう。

◎まとめ

ここまで、インパクトファクターについて幅広く解説してきました。最後に要点を振り返りましょう。

インパクトファクターは、雑誌の平均被引用数を示す評価指標として研究者にとって重要な存在です。投稿先の選定や、研究機関が購読する雑誌を決める際の一助として利用されていますが、雑誌全体の値であることから個別論文の質を評価する指標ではない側面にも気をつける必要があります。

IFへの過度な依存は研究の多様性や革新性を損なう恐れがあり、研究者が自由にテーマを追求する環境を阻害しかねません。編集方針や分野別の特性、それ以外の指標を総合的に判断して論文を投稿し、研究成果をアピールすることが大切です。

今後も新たな学術指標が開発される可能性は高く、研究の評価は一つの数字では語れません。IFを正しく理解しつつ、さまざまな指標や専門家の意見を組み合わせ、研究の本質を見失わないように活用していきましょう。

 

論文を書く上で重要なことを知りたい方はこちら

 

2分でわかる!
ワールドインテックRDについて

配属先との関係性や
実際の働き方を知りたい方必見!

0120-941-820 平日10:00-12:00/13:00-18:00