次世代シーケンサーとしてのナノポア技術ー基本から応用まで

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ナノポア技術の基本原理から具体的な実験フロー、さらには将来の応用可能性までを包括的に解説します。


ナノポアシーケンスは電流変化を利用してDNAやRNA配列をリアルタイムで読み取る革新的な次世代シーケンサー技術です。従来の技術では困難だった長いリードの取得やメチル化情報の取得など、多様な解析が可能になっています。

本記事では、ナノポア技術の基本原理から具体的な実験フロー、さらには将来の応用可能性までを包括的に解説します。

ナノポアシーケンス技術の基本原理

まずはナノポアシーケンスの基礎となる原理と培われてきた背景を理解しましょう。

ナノポアシーケンスは、狭小なポア(穴)を通過するDNAやRNA分子に生じる電流のわずかな変化を解析して塩基配列を読み取る手法です。このアイデアはタンパク質や固体材料を用いたナノメートルサイズの孔を利用することで、分子レベルの検出を可能にした画期的な発想として注目されてきました。蛍光標識を必要とする従来法とは異なり、電流信号のみをもとに配列を割り出せるため、比較的シンプルな装置構成でリアルタイム測定が行える点が特徴です。

DNAやRNAがポアを通るタイミングで得られる電流パターンの違いから各塩基を高精度で予測できるため、複雑なゲノム配列も長いリード長で解析することができます。シーケンス過程が進行している最中にもデータの呼び出しが可能であり、必要に応じて即座に実験方針を変更することができる柔軟性も魅力です。すでに病原体の検出や環境DNAの調査など様々な領域で実用化が進んでいます。

・電流変化を利用したDNA/RNA分子の読み取りメカニズム

ナノポアシーケンスでは、電極が付与された小さな孔をDNAやRNA分子が通過するときの抵抗変化を捉えます。実際には、この抵抗変化が電流信号として観測され、塩基の種類や塩基配列の並び方に応じたユニークなパターンを示します。同時に塩基修飾や二次構造の情報を得ることができる点は、蛍光検出ベースの手法と大きく異なる特徴といえます。

測定された電流信号は高度なアルゴリズムによって解析され、最終的な塩基配列がリアルタイムに呼び出されます。これにより、長いリードを迅速に取得できるだけでなく、微妙な配列変化や修飾部位の検出にも有効です。特に生体試料中の未知配列や高度に繰り返し構造を含む領域でも、有用な情報が得られる点が評価されています。

・代表的プラットフォーム:MinION・GridION・PromethION

ナノポアシーケンサーの代表例として知られるのが、Oxford Nanopore Technologies社のMinION、GridION、PromethIONです。MinIONは手のひらサイズの小型デバイスで、場所を選ばずにシーケンス測定が行える携帯性に優れたモデルとして注目されています。研究室だけでなくフィールドワークなどでも活用され、環境DNA解析や感染症サーベイランスにも導入されています。

GridIONはMinIONよりもやや大型で、高いスループットを必要とする研究向けのプラットフォームです。さらに、PromethIONはより高容量のフローセルを扱えるため、大規模ゲノムの解析や複数サンプルを並行して高速処理するプロジェクトにも適しています。それぞれの機種が兼ね備える特徴を踏まえ、研究や産業応用に合わせたデバイス選択が可能です。

ナノポアシーケンサーの特長と応用事例

ナノポア技術を用いることで得られる独自のメリットや、現場ですでに活用されている多彩な事例を紹介します。

ナノポアシーケンサーの大きな特長の一つとして、シーケンス過程をリアルタイムに把握できる点が挙げられます。既存の技術と比べて解析速度や長いリード長の取得に優れているだけでなく、解析の途中で得られた情報をもとに実験条件を随時見直すことも可能です。医療機関や災害現場など限られた設備・時間の中でも迅速なゲノム解析ができるため、即時性が求められる場面での価値が高まっています。

また、従来の次世代シーケンサーでは困難だった複雑な繰り返し配列や、高GC含量の領域の解析にも対応しやすく、全ゲノムをより正確に把握することが期待できます。さらに、サンプル中に含まれる微細な修飾構造を直接読み取れる技術的な強みもあり、分子レベルの深い理解が今後の研究開発を加速させると考えられます。

・リアルタイム解析と超ロングリードの利点

ナノポアシーケンスのリアルタイム解析は、シーケンス反応が進行しながら逐次データを取得することを意味します。これにより、まだ完全にシーケンスし終わっていないデータからも部分的な結果を得ることができ、緊急時の病原体検出や現場での感染症スクリーニングなど、時間制約が厳しい用途に適しています。また、1リードが数十kbpから数百kbpに及ぶ場合もあり、複雑な構造変異やリピート領域の解析にも力を発揮します。

超ロングリードによってゲノムの組み立て精度が飛躍的に向上し、かつ従来の短いフラグメントでは見つからなかった新規配列も見つけやすくなりました。ヒト全ゲノム解析はもちろん、微生物群集解析でもより高い分解能で種同定が行えるなど、研究や応用の幅を大きく広げています。

・アダプティブサンプリングとメチル化解析への応用

アダプティブサンプリングとは、解析中に特定のターゲット配列を検出した段階で読み取りを停止し、不要なデータを取得しないよう制御する技術です。これにより、重要な領域を重点的に読み取ることができ、時間とリソースを効率よく活用できます。従来は広範な領域を無駄なくカバーするためにハイブリダイゼーションやPCR法を用いたターゲットエンリッチを必要としましたが、ナノポアのアダプティブサンプリングはさらに自在性・柔軟性を増したアプローチとして期待されています。

また、電流信号から塩基修飾の有無を直接検出できるのはナノポアならではの強みです。メチル化解析では、蛍光標識などの追加ステップなしでゲノム上のエピジェネティックな変化を解析できるため、生化学的修飾を含めた包括的なゲノム情報が得られます。これはエピジェネティクス研究や疾患バイオマーカーの探索にとって大きなアドバンテージです。

・ダイレクトRNAシークエンシングがもたらす可能性

ナノポア技術はDNAだけでなく、RNAを直接読み取るダイレクトRNAシークエンシングも実現しています。逆転写やライブラリー増幅を行わずに生のRNA配列を解析できるため、転写後修飾やスプライシングバリアントをそのまま捉えられる点が大きな進歩です。従来手法では難しかったRNAメチル化やエディティングの検出にも対応しやすく、より総合的な遺伝子発現解析を可能にします。

直接測定したRNAデータは、既知の転写バリアントの検証だけでなく新規転写産物の発見にも役立ちます。発現量の定量から修飾解析までを一貫して行えることから、効率的に多層的な視点で生物学的プロセスを理解することができるでしょう。

実験フローガイド:ライブラリー調製からデータ解析まで

ナノポアシーケンスを実行する際の具体的な準備手順から解析までの流れを網羅します。

実験を計画するうえで、まず重要なのはサンプルとなる核酸の品質管理とライブラリー調製の適切な手順を確立することです。どのような目的でシーケンスを行うかに応じて、DNAまたはRNAの抽出方法を選び、充分な純度と濃度を確保しなければいけません。ライブラリー化のプロトコールも簡略化されてきていますが、テンプレート分子の長さやインサートサイズは下流の解析精度に影響を与えます。

次に、取得したシーケンスデータをどのように解析し活用するかも大切なポイントです。塩基配列の呼び出しからアラインメント、アノテーションに至るまで様々なバイオインフォマティクスツールが準備されていますが、デバイスごとの特徴を考慮しながら最適な手法を選択する必要があります。大量に得られる生データをいかに効率良く処理し、意味のある結果へとつなげるかが研究の進度を決定します。

・サンプル前処理とライブラリー調製のポイント

ナノポアシーケンスでは、ターゲットとなる核酸分子をできるだけ長く高品質の状態で用意することが重要です。過度なせん断や分解を防ぐために、抽出プロトコールの最適化や酵素処理の条件に注意が必要となります。特にRNAシーケンスでは、リボヌクレアーゼによる分解リスクの管理が必須です。

ライブラリー調製過程では、アダプターの付与やバーコードの導入など、シーケンス機器の仕様に合わせた処理を行います。このステップでの失敗や不備はシーケンス全体の成功率やデータ品質に直結するため、手順書に沿った正確な作業と品質チェックが欠かせません。

・データ解析ソフトウェアとバイオインフォマティクスツール

ナノポアシーケンスのデータ解析には、塩基配列の呼び出しを行うためのツールから、ゲノム組み立てやマッピング、アノテーションを行う総合的なパイプラインまで幅広く存在します。代表的なソフトウェアとしては、リサルチツールのGuppyやBonito、ゲノムアセンブリツールのFlyeやCanuなどが挙げられます。最新のGPUを活用した高速化の取り組みも進んでおり、膨大なシーケンスデータを効率よく処理できます。

また、可視化ツールやクラウドベースの解析サービスを利用することで、専門性の高い解析もより短時間に実施できるようになっています。プロジェクト規模や目的に合わせてツールを選択し、必要に応じてカスタマイズすることで、最適な解析パイプラインを構築できるでしょう。

ナノポア活用を広げる日本コミュニティとトレーニング

国内における研究者コミュニティやトレーニング環境について、情報交換の場と活用ノウハウを紹介します。

日本各地の大学や研究機関では、ナノポア技術のユーザーコミュニティが形成されており、定期的に勉強会やワークショップが開催されています。そこでは、最新の解析手法や実験トラブルシュートの共有など、実践的な情報交換が活発です。同じ機種を使っているメンバー同士でノウハウを蓄積し合うことで、迅速なトラブル解決や分析効率の向上が期待できます。

さらに、国内の大学や企業主催のトレーニングコースやハンズオンセミナーも充実してきました。初心者向けの基礎講座から、特定の解析手法に特化した上級者向けコースまで用意されており、実機を用いたデモンストレーションや解析演習を体験できる機会が増えています。これらの環境を活用すれば、高度なナノポアシーケンス技術を効率良く習得できるでしょう。

将来展望:ナノポアシーケンスが拓く新たな可能性

技術革新が進むナノポアシーケンスが、医療や環境調査など多様な分野で今後どのように展開されるかを展望します。

今後はさらなる精度向上と高スループット化が進み、大規模プロジェクトや臨床応用での利用が一層活発化すると期待されています。例えば、臨床現場での遺伝子診断や感染症モニタリング、遺伝性疾患の早期診断、農業分野での作物改良など幅広い領域で実用化が進むでしょう。携帯性とリアルタイム解析の組み合わせは、病院だけでなく野外や離島などの遠隔地で迅速にゲノム情報を取得し、その場で処置を判断できる体制をもたらします。

また、電流変化のみで独自の配列読み取りが可能なナノポア技術だからこそ、まだ扱われていない希少生物種のゲノム解析やメタゲノム研究への応用も期待されます。細胞内の修飾や構造変化を含む情報を包括的に得られるため、個別化医療やパーソナルゲノム解析でも重要性が増していくことでしょう。

まとめ・総括

ナノポアシーケンスを導入・活用していく上で押さえておきたいポイントと、今後の更なる応用に向けた見通しを確認します。

ナノポア技術が提供するリアルタイム性と超ロングリード取得能力は、ゲノム解析の形を大きく変革しつつあります。実験フローの簡素化と小型デバイスの普及により、どこでも誰でも高速にシーケンス情報を得られる時代が到来しています。アダプティブサンプリングや直接的なメチル化解析、ダイレクトRNA測定など、独自のアプローチは生物学や医学の分野で新たな研究領域を切り開きます。

とはいえ、技術的にはまだ開発途上であり、配列エラー率やフローセルの寿命などを含む制約も残されています。こうした課題は今後のハードウェアやソフトウェアの改良、そして研究者コミュニティによる知見の共有を通じて解決が進むでしょう。ナノポアシーケンサーを活用することで得られる情報は多岐にわたり、今後一層の発展が期待される次世代シーケンサーの柱となることが見込まれます。

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