生分解性プラスチックとは?環境保全が期待される新素材の基礎知識

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本記事では、生分解性プラスチックの概要や特性、そして普及に向けて取り組まれている技術開発や法整備などを幅広く紹介します。


生分解性プラスチックは、使用後に微生物の働きによって最終的に二酸化炭素と水などの形に分解される特性を持つプラスチックです。世界中で年間およそ4億トンものプラスチックが生産され、その多くが埋め立てや自然界への投棄に回るとされるいま、環境負荷を抑えられる素材として熱い注目を集めています。とくに海洋プラスチックごみに代表される深刻な廃棄の問題を解決する手段の一つとして期待されています。

石油由来プラスチックと異なる点やバイオプラスチックとしての位置づけを明確にしながら、実際の用途や課題、さらに今後の展望まで整理していくことで、生分解性プラスチックを正しく理解する助けになれば幸いです。

バイオプラスチック・バイオマスプラスチックとの比較

バイオプラスチックやバイオマスプラスチックは混同されがちですが、それぞれ特徴や役割が異なります。

生分解性プラスチックは、広義にはバイオプラスチックと呼ばれる素材群の一つとして分類されます。バイオプラスチックには、生分解性プラスチックが含まれるタイプと、分解性を持たないものも存在するため、すべてが自然に分解されるとは限りません。バイオマスプラスチックは植物由来の原料を使用して製造される点が特徴で、CO₂排出抑制や石油資源の節約につながるメリットがあるものの、必ずしも生分解性とは限りません。これらの違いを知ることで、生分解性プラスチックの価値と立ち位置を正確に把握できます。

生分解性プラスチックが含まれるバイオプラスチックの分類

バイオプラスチックには大きく分けて、植物由来の原料を利用するものと、微生物や化学合成によってつくられるものがあります。その中でも分解特性を持つものを“生分解性”と呼び、特定の環境下で微生物によって分解されることが確認されています。一方、植物由来であっても生分解しない素材もあるため、“バイオプラスチック=生分解性”と一概に言えない点が重要です。生分解性を見極めるには、国際的な試験方法や規格に準拠しているかどうかを確認する必要があります。

注目される背景と社会的課題

生分解性プラスチックが注目されるのは、プラスチック廃棄物への対策が喫緊の課題となっているからです。

海洋に流出したマイクロプラスチックの拡散や、世界的に増え続ける埋め立てごみなどの問題を解決する手だてとして、生分解性プラスチックが脚光を浴びています。実際に、環境中に排出されるプラスチックを削減することは、多くの国際的な環境目標や産業界の取り組みにも直結するテーマです。

海洋プラスチック汚染や廃棄物削減の重要性

プラスチックごみの約80%は適切にリサイクルされず、埋め立てされるか海洋へ流出していると推計されています。海洋生物が誤ってプラスチックを摂取し、生態系に深刻な影響を及ぼすケースも増えており、この問題を放置すれば海洋資源の持続可能な利用が脅かされる恐れがあります。生分解性プラスチックは特定の環境下で自然に還る特性を持つため、こうした課題の緩和策として強く期待されているのです。

SDGs・循環型社会との関わり

持続可能な開発目標(SDGs)では、海洋資源の保全や持続可能な消費と生産が大きなテーマとなっています。特にプラスチックごみの削減や環境負荷の少ない素材を選択することは、循環型社会を実現するための重要なステップです。生分解性プラスチックは、適切に利用すれば資源の循環や廃棄物削減への有効な手段となる可能性があるため、国内外で導入を後押しする動きが高まっています。

生分解性プラスチックの仕組みと分解条件

生分解性プラスチックは微生物が引き起こす化学反応によって分解されますが、そのプロセスには特有の条件が必要です。

一般的に、生分解性プラスチックは土壌やコンポスト施設、海水などさまざまな環境において分解する可能性があります。ただし、分解の速度や完了の度合いは、温度や湿度といった環境因子の影響を受けやすく、すべての生分解性プラスチックがどんな条件でも同じスピードで分解するわけではありません。

微生物による分解メカニズム

生分解性プラスチックの分解は、微生物が生産する酵素による加水分解や酸化分解を受けることで進行します。最終的にプラスチック分子が細かく分断され、微生物の代謝によって水と二酸化炭素などの形に変化していきます。微生物が活発に活動できる温度帯やpHが確保されているほど分解は進みやすくなり、土壌微生物だけでなく海洋に生息する微生物も分解を担う潜在力を持っています。

温度・湿度など周囲環境の影響

生分解に必要な条件は、主に温度、湿度、酸素供給量などが挙げられます。コンポストのように温度が高く微生物が活性化している環境では分解がスムーズに進みますが、自然環境下では気候や季節によって分解速度が変化します。さらに、海洋環境でも分解するタイプであっても、水温が低い地域では分解に時間がかかる場合があります。適切な分解性能を発揮するためには、製品の利用方法や廃棄工程を考慮して環境条件を整えることが望まれます。

主要な生分解性プラスチックの種類

生分解性プラスチックには複数の種類があり、それぞれ原料や特性が異なります。

原料となる資源や製造方法によって強度や分解速度、適用分野が変わるため、用途に合わせて適切な素材を選ぶことが重要です。以下では代表的な例を挙げ、それぞれ特徴や使用事例を簡単に紹介します。

PLA(ポリ乳酸)

PLAはトウモロコシやサトウキビなどの植物由来の糖分を発酵させ、生成される乳酸を重合して作られています。強度や透明性に優れ、食品容器や繊維など幅広い分野で利用が進んでいますが、比較的高温のコンポスト環境など特定の条件下で分解しやすい性質を持ちます。低温環境では分解が緩やかになるケースがあるため、利用場所やリサイクルルートを考慮することが大切です。

PHA(ポリヒドロキシアルカノエート)

PHAは微生物が菌体内に蓄積する成分を利用するため、自然環境下でも分解されやすい特性を持ちます。工業的には微生物を大量培養して抽出する工程が必要となり、コスト面や生産スケールの課題がありますが、近年は技術開発が進み生産効率の向上が期待されています。生体適合性に優れているため、医療材料などハイテク分野での応用も検討されています。

PBS(ポリブチレンサクシネート)

PBSは石油由来のコハク酸系材料を原料としながらも、微生物分解を受けやすい性質があります。熱可塑性が高く加工しやすいため、食品包装や農業用フィルムなど多様な用途で利用されています。改良が進んでおり、耐熱性や成形特性を向上させた共重合体も研究開発され、生分解性プラスチック市場の中でも注目を集めています。

海洋生分解性プラスチック

近年、海洋中でも比較的短期間に分解されるプラスチック材料が開発されており、PBS系やPHA系などをベースに改良が進んでいます。海洋生分解性プラスチックは、漁具や海洋資材に利用されることで、海洋プラスチック汚染の緩和につながると期待されています。ただし、海洋環境の温度や塩分濃度によって分解速度が変動するため、確実な実用化にはさらなる検証が必要です。

ライフサイクルとリサイクルシステム

生分解性プラスチックを有効に活用するには、製造から使用、廃棄までの流れをトータルで考えるライフサイクル視点が重要です。

石油由来のプラスチックと異なり、生分解性プラスチックは適切な方法で廃棄することで自然界に還元できる可能性があります。しかし、現状ではリサイクルルートが十分に整備されていない地域も多く、混在廃棄による分解阻害や品質低下などの課題が指摘されています。

廃棄プロセスとコンポスト利用

生分解性プラスチックを効率的に分解させるには、コンポスト施設や堆肥化プラントを活用する方法が有力です。高温かつ微生物が豊富な環境であれば、分解期間は短縮され、廃棄物を堆肥という形で再資源化することもできます。特に食品残渣と一緒に処理する場合、資源のリサイクルとゴミの削減を同時に実現できるメリットがあります。

リサイクルや混在廃棄の課題

生分解性プラスチックは従来のプラスチックと性質が異なるため、分別の徹底が十分でないとリサイクル工程に混乱をもたらすことがあります。たとえば、通常のプラスチックのリサイクルラインに生分解性の素材が混ざると、再生工程に影響を及ぼす可能性があります。普及を進めるには、消費者への周知や事業者側の分別体制の整備が課題となるでしょう。

生分解性プラスチックの用途例

実際に生分解性プラスチックを活用している分野は多岐にわたります。

食品・農業・医療などの分野で、環境負荷を減らすための素材として注目が集まっています。とくに廃棄物が大量に発生する業界では、分解性の高さが大きなメリットとなるケースが多いです。

食品包装・容器や飲料カップ

食品関連の包装 Materials は多数が使い捨てされるため、廃棄量が多いことが問題視されています。生分解性プラスチックを容器に用いることで、ごみの排出を抑え、コンポストの形で資源化できる可能性があります。また、PLA製のカップやストローなどはすでに実用化されており、利用シーンも徐々に広がっています。

農業用フィルムや医療分野

農業用マルチフィルムは畑の雑草予防や土壌保護に利用されますが、使用後の回収が十分に行われず、環境汚染の原因となるケースが課題でした。生分解性のフィルムならば、土中で最終的に分解されるため、手間やコストの削減につながる可能性があります。医療分野では、生体親和性の高い素材として活用され、手術用糸や一部の医療デバイスに利用される事例もあります。

メリットと問題点

環境負荷を低減できる一方で、分解条件やコストなど実際の課題も見過ごせません。

生分解性プラスチックは資源循環に有利な点がある一方、高温や特定の微生物環境でなければ十分に分解しない場合もあります。さらに、製造コストやリサイクルシステムの整備不足といった現実的な問題があるため、メリットだけでなく弱点も正しく把握することが重要です。

環境負荷低減による利点

石油由来のプラスチックと比べ、原料や廃棄時のCO₂排出量を抑制できる点は大きな魅力です。さらに、土壌や海洋など特定の条件下で自然分解が進むため、プラスチックごみが自然環境に残る期間を短縮できます。また、植物由来の原料を使えば化石資源の消費を抑えられ、循環型社会を目指すうえでも有益といえます。

分解条件・コスト・リサイクルへの影響

生分解性プラスチックでも、低温や湿度の低い場所では期待どおり分解が進まないケースが少なくありません。さらに、従来のプラスチックよりも製造コストが高いものが多く、価格面での普及のハードルが指摘されています。リサイクル側での混在廃棄問題もあり、社会全体でインフラ整備や使用ルールの確立が求められています。

今後の展望と普及に向けた取り組み

法規制や技術開発が進み、生分解性プラスチックは今後さらに普及していくと考えられます。

欧州連合(EU)では使い捨てプラスチックに対する規制が強化されるなど、世界各国で環境対策の取り組みが拡大しつつあります。一方で、生分解性プラスチック自体の性能向上やモノづくりの効率化も重要な課題であり、各国の研究機関や企業が競うようにイノベーションを進めています。

法整備・表示制度の現状

一部の国や地域では、生分解性プラスチックであることを証明する認証マークや表示制度が整備されています。これにより、消費者や事業者が適切に製品を選択・排出しやすくなることが期待されています。ただし、表示基準が国や地域によって異なる側面もあり、国際的な規格統一が望まれている段階です。

企業や研究機関の技術革新

製造コストの削減や分解速度の制御、新たな原料の模索など、生分解性プラスチックの技術は急速に進歩しています。特にPHAなど微生物由来の素材では、生産効率を高める菌株の開発や培養技術の向上が実用化のカギを握っています。さらに、リサイクルシステムとの連携や、複合材料など付加価値の高い製品への展開も盛んに研究・実験が行われています。

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まとめ・総括

生分解性プラスチックの可能性や課題を整理すると、今後の環境戦略を考えるうえで欠かせない素材であることがわかります。

生分解性プラスチックは、海洋汚染や廃棄物削減など急務となっている地球規模の問題を緩和する手段として、さまざまな分野から期待されています。バイオプラスチック全体の理解や、適切な分解条件、さらに法整備やリサイクルシステムの整備といった複合的な取り組みが必要ですが、その将来性は大きいといえるでしょう。課題を乗り越え、持続可能な社会に向けて生分解性プラスチックはさらなる普及が見込まれています。

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